日本臨床検査医学会・日本臨床検査同学院が主催する2級臨床検査士試験では、精度管理に関する知識が問われることがあります。精度管理は、臨床検査の信頼性と正確性を確保するために欠かせない要素です。本記事では、試験で出題される精度管理に関する情報を紹介します。
出題内容
2級臨床検査士試験(臨床化学)では、Xbar-R管理図などが出題されることがあります。多くの施設では、検査システムや検査機器の画面上に管理図が表示されるのが一般的です。そのため、アラートが表示された際には再検査などの対応が行われますが、用語やその意味を深く理解せずに業務に当たる場合が多いです。
Xbar-R管理図
Xbar管理図:日間の平均値の偏り
同じ試料を複数回測定すると、その測定値は正規分布に従います。そのため、管理幅を平均値±2SD(管理限界)および±3SD(危険限界)に設定します。この範囲を超えた場合は、是正処置をとることが一般的です。
- 平均値±3SD:全測定値の99.7%
- 平均値±2SD:全測定値の95.4%
- 平均値±1SD:全測定値の68.3%
R管理図:日内のばらつき
同じ試料を日内で複数回測定した場合、その測定値の最大値と最小値の差(範囲:R)を管理図に記入します。これにより、日内誤差変動を管理します。Rが大きい場合は、日内誤差変動が大きいことを示します。
シフト異常とトレンド異常
シフト異常の原因
シフト異常とは、データが突然に目標値から大きく逸脱し、その後、一定の範囲で安定している状態を指します。この異常の原因は以下の通りです。
- 標準物質の変更: 標準物質が新しいロットに変わったことによる影響。
- 試薬の変更: 使用する試薬が新しいロットに変更された場合。
- 機器のキャリブレーション不良: 機器のキャリブレーションが適切に行われていない場合。
- 操作手順の変更: 操作手順や測定プロトコルが変更された場合。
- 環境要因の変化: 室温や湿度などの環境条件が大きく変化した場合。
トレンド異常の原因
トレンド異常とは、データが時間の経過とともに一定の方向に連続的に変化する状態を指します。この異常の原因は以下の通りです。
- 機器の経年劣化: 測定機器の性能が徐々に低下することによる影響。
- 試薬の劣化: 試薬の保存状態や使用期限が切れることによる品質の低下。
- 標準物質の劣化: 標準物質の保存状態が悪く、品質が低下する場合。
- メンテナンス不足: 測定機器の定期的なメンテナンスが不十分である場合。
これらの異常を早期に発見し対処することで、検査結果の信頼性を高めることができます。
マルチルール管理図法
マルチルール(Westgard Rules)は、精度管理のための具体的な判定基準を提供するルールセットです。以下の表に、Caを例に主要なマルチルールをまとめます。
目標値(9.5mg/dL)、±2SD(8.5mg/dL、10.5mg/dL)、±3SD(7.5mg/dL、11.5mg/dL)とする。
ルール | 説明 | 例 |
---|---|---|
1 2s | 1つのデータポイントが±2SDを超えた場合 | 1つのCa測定値が10.5 mg/dLを超える |
1 3s | 1つのデータポイントが±3SDを超えた場合 | 1つのCa測定値が11.0 mg/dLを超える |
2 2s | 連続する2つのデータポイントが±2SDを超えた場合 | 連続する2つのCa測定値が10.5 mg/dLを超える |
R 4s | 連続する2つのデータポイントの差が4SDを超えた場合 | 連続する2つのCa測定値の差が4.0 mg/dLを超える |
4 1s | 連続する4つのデータポイントが同じ側の±1SDを超えた場合 | 連続する4つのCa測定値が9.5 mg/dL以上 |
10 x | 連続する10のデータポイントがすべて平均値を超えた場合 | 連続する10のCa測定値がすべて9.5 mg/dL以上 |
これらのルールを適用することで、異常値の早期検出が可能となり、検査結果の信頼性を向上させることができます。
その他の重要用語
SDI
自施設平均値 (Your Mean) が全施設平均値(Pool Mean)からどのくらい離れているかを示すもので、SDI が0の場合は、全施設値と自施設値が一致していることになります。